第1章[9] 渋谷の街並
渋谷城こと渋谷ヒカリエの周辺は、CJPやこれまでに通ってきた場所と違って、世界の終末を感じさせるような朽ち果てた様子は無い。
建物のアチコチは不格好な増改築がなされ、全体的にスラム化の様相を呈しているものの、そこには確かに人の生活の息遣いが感じられた。
道を歩く人影も多く、賑わっている場所だということが伺える。
(やっぱりココの住人は皆、ゾンビなんだ……。まあ、ゾンビと言っても、人間を相手にするときと変わらず普通にコミュニケーションがとれるみたいだし、違いは肌の色ぐらいなんだけどさ……ん?)
街を歩く人々の顔を見ている中でソウイチロウは、肌の色の違いの他にもうひとつの違和感を覚え、それに気付いた。
「あれ? そういえば、街中に女性がいない……?」
街を歩く者は全て男性の格好をしている。
同乗しているスプライト達のように、一目で女性と判別できる者が一人もいないのだ。
トゥインクルが思い出したような顔をして話を始める。
「あ、そっか……。当たり前過ぎて、説明を忘れてたよ。ミューゾンってのは人間でいう所の男性型……XYの性染色体を持つ個体しかいないよ」
「えっ、そういうもんなの?」
「元々、女性型の個体はゾンビとしての耐用年数が短くてね。今も稼働しているゾンビがそもそもいないってワケ」
トゥインクルの説明の後に続いて、マーキスが口を開く。
「その話で言えばスプライトも、女性の姿をした者しかいないわ」
「へぇー? そっちはまた、なんで?」
「私には分からないわね……。特別な理由や背景が考えられる要素もないし、スプライトを生み出した人の趣味じゃないかしら」
「男の姿をしたゾンビと、女の姿をした人造人間が住人の世界、か……」
自分の生きた時代との違いがさらに明るみになって、ソウイチロウの不安は増す。
(俺、本当にこの時代でうまくやっていけるのかしら……?)
ソウイチロウは再び車外の様子に目を向けた。
道路を走る自動車は、ソウイチロウ達を乗せたSUVの他にはない。
どうやら今の時代では、自動車という乗り物は相当な貴重品らしい。
ということは、そんな貴重品を自由に乗り回すプログラマー・Uも、この世界では相当に良い扱いを受けている人物なのだろうと、想像が出来た。
(プログラマーがありがたがられるって話は本当みたいだ……)
不安要素しかない今のソウイチロウにとっては、自身のプログラミング・スキルが重宝されるという可能性は、救いになるのだった。
SUVは渋谷ヒカリエに到着し、入口に横付けした。
入口のドア前には、ピシッと折り目正しい黒のスーツを着用した、まるで熊のような大柄な男の姿があった。
当然、その男の肌も青白く、血色というものは一切ない。
(ってか、ゾンビでもスーツを着るんだ……)
ソウイチロウが車を降りると、スーツの男がゆっくりと歩いて向かってきた。
男の鋭い目つきに、ソウイチロウは威圧される。
「これは、驚きました。報告には聞いていましたが、本当に生きている『人間』がおられるとは……」
スーツの男はソウイチロウの目の前に立つと、一枚の名刺を差し出した。
「貴方がソウイチロウさんですね……私はこういうものです」
名刺には、『Mayor・P』の文字が書かれていた。
「Mayor……?」
メイアーという単語の意味を知らないソウイチロウが戸惑っていると、トゥインクルが横からフォローを入れる。
「市長って意味だよ。この渋谷市の市長のメイアー・P」
「Pさん……って言うんスね。自分がソウイチロウっス」
熊のような厳めしい大男の名前が可愛らしい響きであることに、ソウイチロウは吹き出しそうになるのを我慢する。
(いやまあ、可愛い名前の熊だっているけれども……!)
「そして、あなたがミツボさんですね。どうぞ、よろしくお願いします」
メイアー・Pは小さいなミツボに対しても腰の低い姿勢を崩さずに、名刺を差し出した。
「私がミツボだよ! よろしくね、P!」
名刺を受け取ったミツボは、Pに笑顔を見せる。
「スプライトの性能は、体の大小で決まるものではない事は承知の上ですが……。それにしても、このような児童型のスプライトが、たった一人でブラック・モンスターを討伐したなどと、やはり、にわかには信じられません……」
Pは首の後ろに手をまわした。
「私がドラゴンをミラクルナックルで倒したんだよ!」
ミツボはパンチを繰り出すポーズを取ってみせた。
「ソウイチロウ。アンタが手に入れた魔法石をPに見せてやりなよ」
トゥインクルに促され、ブラック・ドラゴンが残していった黒く大きな魔法石を、バッグから取り出した。
「これが、ドラゴンが残していった魔法石っス」
ソウイチロウは魔法石をPに差し出した。
「これは間違いなく、ブラック・モンスター級の魔法石……! こうして現物を見せられては、納得するしかありませんね」
Pは深く頷くと、ソウイチロウに魔法石を返した。
「ソウイチロウさんとミツボさんは、私に付いてきてください。お茶を用意させていただきました。プログラマー・Uさん達もご一緒されますか?」
Uは首を横に振る。
「いや、俺達は遠慮する。受付で諸々の報酬を受け取った後、今日はこのまま帰る」
「承知しました。既にご用意が出来ておりますので、どうぞお受け取り下さい。なお、ソウイチロウさんとミツボさんを保護いただいた件に関してましては、なにぶん規定が無いものですから、報酬額の算定が難しい状態でして……。本日のところはレッド・モンスター級の討伐と同額をご用意させていただきました。後日、正式な報酬額が確定され次第、改めて差額を支給させていただきます」
「了解した、それで問題ない。では俺達はコレで失礼する」
Uは一人でスタスタと、渋谷ヒカリエの一階入口の奥に向かって歩き出した。
「ごめんね、メイアー。ウチのプログラマーが不愛想で……」
「それでは、私たちも失礼するわ。また、どこかで会いましょう、お二人さん」
「じゃあね。ソウイチロウ、ミツボ」
トゥインクルとマーキスがUの後を追いかける。
「それでは、私たちも行きましょう。ソウイチロウさん、ミツボさん」
Pは二人を渋谷ヒカリエの中へと招き入れた。
建物のアチコチは不格好な増改築がなされ、全体的にスラム化の様相を呈しているものの、そこには確かに人の生活の息遣いが感じられた。
道を歩く人影も多く、賑わっている場所だということが伺える。
(やっぱりココの住人は皆、ゾンビなんだ……。まあ、ゾンビと言っても、人間を相手にするときと変わらず普通にコミュニケーションがとれるみたいだし、違いは肌の色ぐらいなんだけどさ……ん?)
街を歩く人々の顔を見ている中でソウイチロウは、肌の色の違いの他にもうひとつの違和感を覚え、それに気付いた。
「あれ? そういえば、街中に女性がいない……?」
街を歩く者は全て男性の格好をしている。
同乗しているスプライト達のように、一目で女性と判別できる者が一人もいないのだ。
トゥインクルが思い出したような顔をして話を始める。
「あ、そっか……。当たり前過ぎて、説明を忘れてたよ。ミューゾンってのは人間でいう所の男性型……XYの性染色体を持つ個体しかいないよ」
「えっ、そういうもんなの?」
「元々、女性型の個体はゾンビとしての耐用年数が短くてね。今も稼働しているゾンビがそもそもいないってワケ」
トゥインクルの説明の後に続いて、マーキスが口を開く。
「その話で言えばスプライトも、女性の姿をした者しかいないわ」
「へぇー? そっちはまた、なんで?」
「私には分からないわね……。特別な理由や背景が考えられる要素もないし、スプライトを生み出した人の趣味じゃないかしら」
「男の姿をしたゾンビと、女の姿をした人造人間が住人の世界、か……」
自分の生きた時代との違いがさらに明るみになって、ソウイチロウの不安は増す。
(俺、本当にこの時代でうまくやっていけるのかしら……?)
ソウイチロウは再び車外の様子に目を向けた。
道路を走る自動車は、ソウイチロウ達を乗せたSUVの他にはない。
どうやら今の時代では、自動車という乗り物は相当な貴重品らしい。
ということは、そんな貴重品を自由に乗り回すプログラマー・Uも、この世界では相当に良い扱いを受けている人物なのだろうと、想像が出来た。
(プログラマーがありがたがられるって話は本当みたいだ……)
不安要素しかない今のソウイチロウにとっては、自身のプログラミング・スキルが重宝されるという可能性は、救いになるのだった。
SUVは渋谷ヒカリエに到着し、入口に横付けした。
入口のドア前には、ピシッと折り目正しい黒のスーツを着用した、まるで熊のような大柄な男の姿があった。
当然、その男の肌も青白く、血色というものは一切ない。
(ってか、ゾンビでもスーツを着るんだ……)
ソウイチロウが車を降りると、スーツの男がゆっくりと歩いて向かってきた。
男の鋭い目つきに、ソウイチロウは威圧される。
「これは、驚きました。報告には聞いていましたが、本当に生きている『人間』がおられるとは……」
スーツの男はソウイチロウの目の前に立つと、一枚の名刺を差し出した。
「貴方がソウイチロウさんですね……私はこういうものです」
名刺には、『Mayor・P』の文字が書かれていた。
「Mayor……?」
メイアーという単語の意味を知らないソウイチロウが戸惑っていると、トゥインクルが横からフォローを入れる。
「市長って意味だよ。この渋谷市の市長のメイアー・P」
「Pさん……って言うんスね。自分がソウイチロウっス」
熊のような厳めしい大男の名前が可愛らしい響きであることに、ソウイチロウは吹き出しそうになるのを我慢する。
(いやまあ、可愛い名前の熊だっているけれども……!)
「そして、あなたがミツボさんですね。どうぞ、よろしくお願いします」
メイアー・Pは小さいなミツボに対しても腰の低い姿勢を崩さずに、名刺を差し出した。
「私がミツボだよ! よろしくね、P!」
名刺を受け取ったミツボは、Pに笑顔を見せる。
「スプライトの性能は、体の大小で決まるものではない事は承知の上ですが……。それにしても、このような児童型のスプライトが、たった一人でブラック・モンスターを討伐したなどと、やはり、にわかには信じられません……」
Pは首の後ろに手をまわした。
「私がドラゴンをミラクルナックルで倒したんだよ!」
ミツボはパンチを繰り出すポーズを取ってみせた。
「ソウイチロウ。アンタが手に入れた魔法石をPに見せてやりなよ」
トゥインクルに促され、ブラック・ドラゴンが残していった黒く大きな魔法石を、バッグから取り出した。
「これが、ドラゴンが残していった魔法石っス」
ソウイチロウは魔法石をPに差し出した。
「これは間違いなく、ブラック・モンスター級の魔法石……! こうして現物を見せられては、納得するしかありませんね」
Pは深く頷くと、ソウイチロウに魔法石を返した。
「ソウイチロウさんとミツボさんは、私に付いてきてください。お茶を用意させていただきました。プログラマー・Uさん達もご一緒されますか?」
Uは首を横に振る。
「いや、俺達は遠慮する。受付で諸々の報酬を受け取った後、今日はこのまま帰る」
「承知しました。既にご用意が出来ておりますので、どうぞお受け取り下さい。なお、ソウイチロウさんとミツボさんを保護いただいた件に関してましては、なにぶん規定が無いものですから、報酬額の算定が難しい状態でして……。本日のところはレッド・モンスター級の討伐と同額をご用意させていただきました。後日、正式な報酬額が確定され次第、改めて差額を支給させていただきます」
「了解した、それで問題ない。では俺達はコレで失礼する」
Uは一人でスタスタと、渋谷ヒカリエの一階入口の奥に向かって歩き出した。
「ごめんね、メイアー。ウチのプログラマーが不愛想で……」
「それでは、私たちも失礼するわ。また、どこかで会いましょう、お二人さん」
「じゃあね。ソウイチロウ、ミツボ」
トゥインクルとマーキスがUの後を追いかける。
「それでは、私たちも行きましょう。ソウイチロウさん、ミツボさん」
Pは二人を渋谷ヒカリエの中へと招き入れた。