序章[4] ニルビス起動

ソウイチロウの強い意思を持った言葉に、オルヒデアは感嘆した様子を見せた。

「先ほどのそなたの行い、そして今の眼差し……そなたからは、盟友の素質を感じる」

「め、盟友……?」

唐突なオルヒデアの言葉にソウイチロウはまたも戸惑う。

「盟友とは、勇者たる我とともに魔王に立ち向かう者なり。その始まりは勇者のたるハルストフの戦友、サイラスとパーティルが彼等の旅立ちの日に誓いし盟約に端を発し、しかる後に彼らが――」

「ストップ! 長い解説話は、いったんストップ! まだまだこの後も、敵の攻撃が続くんだから!」

何かを語り始めたオルヒデアを、ハナコが止める。
オルヒデアは不満げな表情を見せた。
彼女には語り癖でもあるのだろうか。

「オルヒデア、まずはニルビスを有効化アクティベートして!」

「うむ。それこそが勇者たる我の役目なり」

ハナコの声に応じて、オルヒデアがニルビスの立像に近づく。

(ニルビスの有効化アクティベート? どういう意味? あの立像が何だっていうんだ?)

ソウイチロウは疑問に思いながらニルビスの立像を見上げた。

「――今、盟友ニルビスに許諾きょだくを与えん。偽りの姿を捨てさり、勇者たる我の前になんじの真の姿をさらすことを!」

オルヒデアの叫び声が広場に響いた。
すると、オルヒデアの体から青色の光を放つオーラが立ち昇り、オーラはニルビスの立像に吸い込まれていった。

そして、わずかな間をおいて――

「動いてない? あれ、思いっきり動いてない!?」

ソウイチロウの目には、信じられない光景が映っていた。
ただの立像であるはずのニルビスの首がゆっくりと動いて、こちらに顔を向け始めたのだ。

さらには顔だけではなく、ニルビスの全身が音を立てて動き始めた。

「わー! にるびすがうごきだした!」

ミツボが両手を上げて飛び上がる。
ニルビスが動き出したことに恐れを感じている様子は無かった。

ニルビスはゆっくりとその場にしゃがみ込んでから、右手をハナコに向かって差し出した。
ハナコはニルビスの手のひらに飛び移ると、

「ミツボ、おいで! 君も! 今はこっちが一番安全な場所だから! オルヒデアは次の指示があるまで、周辺の人達の救護に当たって!」

ハナコはミツボとソウイチロウに向かって叫びながら、スマートフォンをオルヒデアに投げ渡した。

「ただの立像が本物のスーパーロボットに……これも魔法の力だっていうの!?」

ソウイチロウはニルビスを見上げながら叫んだ。

「詳しい話はあと! 急いで!」 

ハナコに促され、まずソウイチロウがニルビスの手のひらに乗り、それからミツボに向かって両方の手を差し伸べた。

「ミツボくん、俺の手に掴まって!」

「ちがう! みつぼは、おんなのこ!」

「えっ、そうなの!?」

髪型や服装、そして剣を振り回して遊ぶ姿もあって、勝手に男の子だと勘違いしていた。

「ごめんね、ミツボちゃん……。いい? 引っ張るよ! せーのっ」

「んしょっ!」

ソウイチロウに引っ張られて、ミツボの体もニルビスの手のひらの上に乗った。

「いいよ、ニルビス!」

ハナコの声に応じて、ニルビスはゆっくりと手のひらを自分の胸の位置まで引き上げた。
ニルビスの胸部のハッチが開き、その奥には座席と操縦桿が見えた。
どうやらここがニルビスのコックピットらしい。

「ついてきて!」

ハナコがコックピットに飛び移る。
その後ろに続いて、ソウイチロウとミツボもコックピットに滑り込んだ。

コックピットの空間は想像以上に広く、三人が入り込んでも十分な余裕があった。
コックピット内は複座になっており、操縦席は全部で三つ配置されていた。

「二人は奥の席に! シートベルトを忘れないで!」

ソウイチロウとミツボがコックピットの奥にあるシートに腰を下ろすと同時に、コックピットのハッチが閉ざされた。

「こちらハナコ。ニルビスへの搭乗、完了しました」

ハナコが正面に向かって話しかけると、コックピット内部に設置されているスピーカーから女性の声が聞こえた。

『正規パイロットの搭乗を確認。敵の機動部隊が東京湾上空から降下中、迎撃に向かってください』

どこか棒読みな喋り方は、それが合成音声だからなのだろう。

「了解! 行くよ、ニルビス!」

ハナコの呼びかけに応じて、ニルビスがゆっくりと立ち上がる。

「いざ行け、ニルビス! あおき風となり、空を駆けるのだ!」

仁王立ちのオルヒデアが声高らかに叫ぶ。
それに呼応するように、ニルビスは東京湾の上空に向かって飛び上がった。